招き猫

[98-11-29]


猫@東横 数年前から 招き猫がはやりだしているらしい。 デパートでも「招き猫即売会」をやっていたし, この夏から秋にかけて, テレビの通販でまで 招き猫を売っていた。 それも, いくらだったかもう忘れたが 結構高い値段がついていたのに驚いた。 右手を挙げたものと 左手タイプの2つをペアにしているなど, 微妙にマニアの心をくすぐるところなど さすが商売人だと感心した。

招き猫って何だろう。 広辞苑を調べてみると, こう書いてある。

【招き猫】

すわって片方の前足を挙げて人を招く姿をした猫の像。
顧客・財宝を招くというので、縁起物として商家などで飾る。

元来は 店に飾る縁起物だったようだ。それを個人が「かわいいから」という 理由で集めはじめたと思われるのだが, 変なもんが流行するものだ。
正直言って 私は招き猫にあまり興味はないのだが, あまりに流行しているようなので そのことに興味がわいてきた。



【 豪徳寺 】


小田急線に「豪徳寺」という駅がある。東京は世田谷区になる。
もう 40年も東京・横浜に住んでいながら, ここがどんな寺なのか などということには 全く興味がなかった。
この夏に テレビを見ていたら 豪徳寺の紹介をやっていて, 住宅地の中にあるのに 広大な敷地があって, おまけに「招き猫発祥の寺」として有名だ という話を聞いた。 さらに この寺は 桜田門外の変で有名な 井伊直弼の墓があるという。
これは面白そうだ というわけで, 早速訪ねてみた。

この寺に行くには, 小田急の豪徳寺駅から行くとかなり距離がある。 東急・世田谷線の宮の坂駅から行くのがいい。 ―― インターネットを検索して そんなことを知った。

猫の寺 住宅地のド真中にある寺にしては ずいぶん広い境内である。それだけ裕福だということか。
正面に仏殿, その裏手に本堂があって 荘重ではあるが 何か面白味に欠ける。 わずかに 寺務所に招き猫が数匹置いてあるのが見えただけ。
「招き猫の寺」というので 何か「猫だらけの寺」 というイメージを持ってしまったため あてがはずれて ややガッカリする。

これですべてなら面白くない寺だな と思いつつ 墓地の方に歩いていくと・・・

招福観音
あったあった! “招福観音”と書いたチョーチンがぶら下がったあまり大きくもないお堂がある。 左手には 大小4匹の猫が一斉に右手を挙げて私を招いてくれている。

中を覗くと, 暗やみの正面 仏壇の最上段に招き猫が鎮座している。 (豪徳寺では「招福猫児」(まね“ぎ”ねこ)と呼ぶのだそうな)
猫オジサン ここの招き猫は, 一般に市販されている 金色の小判を抱いたりして ゴテゴテと飾りたてられた猫と違い, 単純な白色に 赤い首輪をつけただけの 非常にシンプルなのが上品である。

お堂の左手に 奉納された無数の招き猫が並べておいてある。 「猫塚」とでも言うのだろうか。
大小色とりどりの猫が 右手・左手を挙げている。 市販の派手な猫が少々, あとの大半は 売店で売っているシンプル猫だ。

その横では 変なおっさんが自分も右手を上げて猫のまねをしている。 何なんだ このヒト・・・?


豪徳寺がどうして 招き猫発祥の地と言われるようになったかというと, こんな伝説があるという。

江戸時代初期のこと。当時この辺りは 近江彦根藩主・井伊家の所領だった。
藩主・井伊直孝が馬で通り掛かった時, にわかの夕立に見舞われた。 見ると 寺の門前で白猫が右手を挙げて招いていた。 猫は寺の住職の愛猫「たま」だった。 「では ちょっと雨宿りを」と本堂に入り 時を過ごしていると, ドーンと稲妻が走り 今入ってきたばかりの道に落雷。 門前の木につないでおいた馬が倒れていた。 猫のおかげで命拾いした直孝は その寺の支援を約束。 豪徳寺は井伊家の菩提寺となり, 大造営によって寺は大いに賑わった。 後に たまの墓が建てられ, 招き猫が祀られるようになった。
井伊直弼墓

というわけで, 境内の 1/5ぐらい?の面積が 現在も井伊家の墓地となっている。

歴代の藩主とその家族の墓がたくさん並んでいる。
かの有名な, 安政の大獄を引き起こし 桜田門外の変で首を取られた 井伊直弼の墓もここにあった。

墓を守る猫

さすが豪徳寺 と思わせる猫。
井伊家の墓の一つに 陶器で作られた猫の人形(猫形?)が置かれていた。

なぜ これが招き猫でなく 寝そべった猫なのだろうか?
しばらく考えてみたが, 墓地で「おいでおいで」とやるのは まずいのだろうな... と納得。


楠くん社


大阪には大きな神社がたくさんあるが, 住吉大社はは大阪で一番大きな神社だそうだ。
初詣の人出を発表するときは, 東京では明治神宮, 京都では平安神宮が代表として選ばれるように, 大阪では住吉大社が代表的な神社として取り上げられる。

住吉大社の灯籠 ここは 日本中の「住吉神社」の総本社だそうである。

住吉神社は 海上での安全を祈願するために造られた神社のはず。 海から 5-6kmも入り込んだこの地に どうして住吉大社ができたのか 不思議に思うのだが, 昔 大阪湾は現在の海岸線よりずっと奥まで入り込んでいて この辺りに港があったのだそうだ。 それも そんなに太古の話ではなく, 例えば 秀吉の時代にそうだったという。

この神社には 珍しく4つの本殿があって 「住吉造」と呼ばれる独特の建築様式で 国宝になっている。
また 神社の周囲には 大きな石灯籠が無数に奉納されていて, 不思議な雰囲気をかもしだしている。

初辰猫
住吉大社の境内にはいくつかの摂社・末社があるが, その一つに 『楠くん社』 (「くん」は「王へんに君」の字)と呼ばれる稲荷神社がある。
ここは 『初辰さん』と言って, 毎月の最初の「辰の日」が縁日になっていて, この日に 楠くん社で招き猫の土人形を受けると福が授かる として「招福猫」の神社として有名である。

この猫を神棚に飾り それを4年間続けると 48体の猫が集まる。 これで満願成就ということになり 大きな初辰猫と交換してくれるという。

「48回の初辰猫」=「始終発達」という語呂合わせがあって, 商売繁盛の縁起物として 珍重されている。
初辰猫2 初辰さんの招き猫は 紋付きハオリ・ハカマ姿 という独特の装いをした 白猫である。

ここの猫は きつね みたいな顔つきをしているような気がする。 もともとが稲荷神社のせいだろうか。

初辰猫は500円。紙袋に入っている。 大型の猫と一緒に お盆にぎっしり乗っている。
右手を挙げた猫と 左手のとがある。 聞いたところによると 左右は月毎に変わるのだそうで, 偶数月には右の方を授け 家内安全を祈り, 奇数月には左の方で商売繁盛。 希望すれば 左右どちらも譲ってもらえるらしい。



【 金山寺・招き猫美術館 】


岡山駅から 7-8km 北東に行ったところに 金山寺という寺がある。 「きんざんじ」なのかと思ったら「かなやまじ」と呼ぶのだそうで, 従って『きんざんじみそ』とは関係がない。

ここに 招き猫美術館 がある。「日本一小さな美術館」と自称しているので あまり期待できないだろうな... と思いながら, ひまつぶしに出かけてみた。

金山寺本堂の絵馬
山の中にポツンとある寺で, 交通アクセスが非常に悪い。 最寄りの駅から徒歩なら 50分。 車で15分。

広大な境内の中に やや荒れかけた本堂。庫裏も荒れている。
本堂の周囲(軒下)には 大きな猫の絵馬がたくさん見えて, ようやく「猫の寺」に来たなと 安心する。

この写真では小さくてよく分からないが, 一つひとつの絵がユニークで とても面白い。
招き猫美術館
美術館は寺の横手にあった。
寺が荒れていたため 美術館も見すぼらしいのではないかと心配したが, 赤と黒を基調にした 近代的な感覚の美術館だった。

聞くと, ここの館長が招き猫を収集していて 何かの形で公開したいと思っていたら, 金山寺の住職が 寺の建物の一部を使わせてくれたのだそうで, したがって 館長は寺とは無関係の人だそうだ。

4年前に開館して, その時に記念のために 本堂にも猫の絵馬を掲げたとか。
世の中で招き猫が流行りだしたのは そのあとのことだ... というのが この美術館の自慢らしい。
招き猫大賞展
とはいえ, 「日本一小さな美術館」というだけあって, 2階建ての小さな蔵を改装した内部には 数十の招き猫が飾ってあるだけで, 規模の点で やや不満が残る。

2階では 「日本招き猫大賞展」 を開催中。

帰りぎわに お茶をごちそうになって, 招き猫のヨモヤマ話をする。
岡山には最上稲荷という神社(本当は寺)があって, そこにもたくさんの招き猫が見られるという話。 せっかく岡山に来たので ついでにそちらにも立ち寄る。
どちらも遠くて疲れた。


[98.12.7 追加]

今回はコメントしにくいテーマだったようで,いつもよりお便りが やや少なめでした。その中からいくつかをご紹介します。

なお, 本文中に紛れ込んだ「変なおっさん」の写真について いろいろご意見などをいただいていますが, 本人からの強い要求があり すべてカットせざるを得なくなりました。 悪しからずご了承ください。


【 Hさんから 】

久しぶりに昼休みにじっくり、 にやにやと小川さんの世界に浸って
しまいました。

何か気になったら、調べてみて・・・という行動力にはいつも感心させられます。
私も気になったことはある程度は調べるたちなのでインターネットの検索
サービスや百科辞典CD-ROMなどはよく利用します。

また、小川さんの書かれた内容に対して何人かの方がいつもコメントをして
いらっしゃいますが 私の場合はフムフムと読むだけで、 いつもコメントする
ような実体験や関連の知ってることがないのが残念です。


フムフムと 楽しんで読んでいただければ それで十分ありがたいのですが, 気が向いたら またコメントをお願いします。


【 Mさんから 】

豪徳寺の招き猫は有名で、私も同じ世田谷区に住んでいて
一度は行って見ようと思っていたところです。
私も、小川さんのように、いろいろなお寺巡りをしたいのですが、
毎日を子育てに追われている身ではそうもいきません。
でも、日曜日の早朝に近くのお寺(九品仏にある浄真寺)でラジオ
体操を一年中やっている老人会があり、私も時々参加して、朝の
新鮮な空気を吸って、お寺の仏像にお参りしています。
このお寺は、結構大きくて、3年毎にある、お面かぶりの祭りは
特に有名みたいです。

招き猫の寺の話からずれてしまいましたが、いろいろな寺で猫を題材に
しているものだと、しみじみ思いました。

私も車で30分ぐらいで豪徳寺までいけますので、今度は子供連れで
行ってみます。


【 Fさんから 】

今回の『明石たより』のテーマは何だろう? と思いきや,『招き猫』
とは意外な展開。
なんだか縁起の良いテーマだなぁと思い拝見しました。

『招き猫』にもいろんなデザイン(?)のものがありますよね。
ほとんどキャラクター化しているようです。
やはりシンプルなものがいちばんかわいい(?)ように思います。
でも,こんな風にちゃんとお寺に奉られているんですね。

3つのお寺が出てきましたが,やはり『豪徳寺』に一番興味を惹かれました。
私もあの招き猫だらけの中で一緒に写真を撮りたい!!
(信楽のたぬきの中では撮ったことがあるのですが・・)
なんだか,すっごくいいことがありそうですよね〜。

井伊直孝の話もおもしろいですね。
そのものに関する昔話っていうのは結構読んでて楽しいものです。


【 Kさんから 】

招き猫にも、こんないわれ、種類(左右)があったのかと初めて
知りました。しかし、あの野生的な猫が人を招くはずはないと思うのが
以前かっていた者の実感です。
せめて尻尾をたてて足元にすり寄ってくるていどでは。

日本には『猫が顔を洗うとき 手が耳を超えると 晴天になる』 というような言い伝えがありますが, 中国では『猫が顔を洗うとき 手が耳を超えると 来客がある』 と言うそうです。 この「猫の顔洗い」習性が ちょうど「おいでおいで」しているように 見えることから, 「猫が人を招く」という話になったと 考えられているようです。

しかし 猫が野性的と見る人もいるんですね。
私には, 犬に比べて利己的な性格とは見えるけれど, 野性的と思ったことはありませんでしたが...


【 Mさんから 】

招き猫については、全くの素人なので、招き猫の由来には、『ほほう』と
感心してしまいました。
いかにも、日本の言い伝えという感じのお話ですよね。

しかし、住吉大社の『はおりはかま猫』は、『赤首輪猫』に比べると、すこし
ありがたみに欠ける表情だと思うのは私だけでしょうか?
やっぱり、一般的な『赤首輪』のほうが、ふっくらとしていて、お目目も
ぱっちりで、お金持ちになれそうな気がします。

招き猫美術館がおしゃれで驚きました。エントランスの文字はフランス語
では・・・??

招き猫からはそれますが、変なものが流行るという話で思い出しました。
最近『五穀』が流行ってるそうですね。先日『五穀チーズ』なるものを
スーパーで見かけました。
母に『五穀』って美味しいの?って訪ねたら、「おいしいわけがない」と
言われて、チャレンジしそこねています。

『五穀』とは何だろうと辞書を引いてみると,
人が常食とする五種の穀物。
米・麦・粟(アワ)・豆・黍(キビ)または稗(ヒエ)など諸説がある。
とありました。
こういうものが流行っているとは知りませんでしたが, 察するところ 米・麦に偏らず いろいろな穀物を摂って 栄養のバランスを整えなさい ということなのでしょうか。
なかなか味のある流行ですね。


【 Tさんから 】

お金に頓着しない性格なのか、この歳まで招き猫を求めたこともなく、
現在に至っています。イッケ位求めて子孫に宝でも残すか?
宝が貯まらず、客ばかり来ては支出が増えてしまいそうですが。

ところで、いつも楽しみにしている明石だよりですが、「次はこのテーマ
にしよう」というのは、ある方針に基いているのか、場当たり的に決めて
いるのか、興味があります。
どういう契機で次はこのテーマと決定しているのでしょうか?教えてください。


企業秘密なので あまり舞台裏をバラしたくないのですが (^^;) 長期的な展望のもとに テーマを選んでいるわけではありません。
最近の明石たよりは 写真中心になっているため, どんな写真が手元にあるか がテーマを選ぶ最大のポイントです。面白そうな写真を撮るために, どこに行けば何をやっているか というような情報に大変敏感になりました。



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