かつめし

[98-06-17]


私は 豚肉があまり好きでない。そのくせに トンカツは比較的好んで食べる。
豚肉は 煮ると特有の「肉くささ」があって それがいやなのだが, 揚げてしまうと においがなくなるからいいのかもしれない。 娘に言わせると「あんな 油ギトギトのものを よく食べる気になる」 ということだが, 昼飯を外で食べる時には 無意識のうちにカツ丼を頼んでいることが多い。

もう数カ月前のことになるが, Aさんから こんなメールをもらった。

  『加古川名物かつめし』というのも おもしろい食べ物ですよ。
  最近TVでも紹介されたりして、巷では、「うわさ?」なのですが・・
  加古川一帯でしか、口にはいらない(?)、食べ物で・・
  なのに、加古川の人は全国の人が食べている、レギュラーな食べ物だと
  思っている・・不思議な地域限定の一品です。
  加古川駅前の店なら、定食屋から喫茶店、洋食屋・・とほとんどの店で
  通常メニューとして扱っています。
  一度、お試しください。
 (ちなみに, 加古川市は 明石市と姫路市の間に位置する 人口26万ほどの町で,
  JRの駅でいうと 明石から西に向かって6つ目の駅になる。)

まずは 何人もの人に「かつめし」というものを知っているか 聞いてみた。
聞いた相手は 垂水〜明石あたりから 姫路・高砂あたりに住む人まで 両手をかなり超える数になったが, 「知っている」と答えた人には 残念ながら一人も出会わなかった。加古川市の住人にも聞いたが 知らなかった。
同じ加古川でも 駅に近い中心部に生まれ育った人でないと 知らないのだろうか。

で, まずは体験から というわけで, 早速加古川に行って「かつめし」を探した …… が なかなか見つからない。
土地カンがないというのはどうしようもないもので, だいたいどのあたりに レストランがあるのかさえ見当がつかない。
うろうろと歩き回った結果, 一軒の店で「かつライス」というメニューを見つけた。 レジの横には『加古川名物かつめしの店』というマップが貼ってあり, 駅を中心に 20数軒のレストランの名前がある。フムフムこれだな。なるほど・・・

かつめし 四角い皿にご飯を盛り, やや薄めのカツを乗っけてソースをかけてある。 ただそれだけの ごくシンプルな食べ物。
一口食べて オヤ? と思った。これは牛肉ではないか! あらためてメニューを見ると, 小さい字で“ビーフです”と断ってある。
ウェイトレスに「かつめしというのはビーフカツなのか」と聞いたら キョトンとしている。
「これは かつライスですけど。トンカツですよ。 かつめしって何ですか?」
・・・ こりゃ駄目だ。このおばさん 自分の勤務先の商品知識がまるでないぞ。 顧客の不満足度は一気に高まる。
「ここに“ビーフです”と書いてあるけど……?」というと, あわてて裏から コック帽をかぶったオニイチャンを呼んできた。
「これは牛肉です。ウチでは かつライス と かつめし は同じものです。」
……だんだんわからなくなってきた。 『加古川名物かつめし』はビーフカツだったのだろうか?

ソースは hashed beef -- ハヤシライスのようなコッテリした味。 はじめは うまいかな...と思っていたが, だんだん飽きてきて 全部食べるのに ちょっとした努力が必要だった。
正直言って これは私の口にはあわない。もっとハッキリいうと あまりうまくない。


しかし, これで終わりにしてしまったら, Aさんからは 「それは食べた店が悪かった」といわれるのは目に見えているので, もう一軒 別の店で試食することにした。
かつめしのハシゴはつらいので また別の日に … と思っているうちに いつの間にか何カ月も経ってしまった。

かつめしpart2 駅からかなり離れた場所に かつめしを出すレストランがあると知って 行ってみた。ここは 一見喫茶店風で ちょっと見には かつめし なんてメニューがあるようには思えない。
出てきたかつめしは, 写真で較べても 単に 皿が丸いか四角いかの違いしかわからないだろうが, こちらは 正真正銘の“トンカツ”だった。
ソースもあまり飽きのこない あっさりしたもので, じわっとジューシーな 揚げたてのカツとの相性もなかなかよろしい。 これは なかなかうまい。

やはり 店によって流儀が違うようで, いろいろ食べくらべてみないと 本当の姿はわからないものだ。 それにしても どうして「かつめし」が加古川名物になったのだろうか。

  §     §     §     §     §     §

かつめし についていろんな人に聞いていたら, 「長崎には“トルコライス”というものがあるらしい。 トルコライスの加古川版が“かつめし”ではないか」という話があった。
これについても 長崎出身の数人に聞いたが, 「そんなの知らない。 あるとすれば 最近の流行ではないか」と取り合ってもらえない。
じゃあ トルコライスとはどんなものか, 一度体験したくなるではないか。 そんなわけで 長崎まで トルコライスを食べに行ってきた。

...というのは 冗談で, たまたま 4月に長崎に遊びに行った際に, ふと思い出して トルコライスとやらを探してみた。
しかし 長崎の中心部では (少なくとも 観光客の集まるようなところでは) いくら探しても目的のものは見つからない。 偶然に 裏通りの定食屋風の店で見つけたのが これ。

トルコライス かつめしと同様 トルコライスも店によって内容が少しずつ違うようだが, ひとことで表現するならば, 一つの皿に チャーハン風のご飯, トンカツ, それに スゲッティが乗ったもの。これを見てすぐ連想するのは お子様ランチ。 でも お子様ランチには こんな大きなトンカツは乗っていないか。

店で聞いたところによると,
 * ご飯は 焼き飯・カレーピラフ・チキンライスなど いろいろ。
 * 必須アイテムは トンカツと スパゲッティ。
 * 長崎人は 全国にトルコライスがあると信じている。
 * トルコライスを出す店はかなりあるが たいてい大衆的な店。
 * 長崎市内から 大村市やハウステンボスあたりにもある。
 * 東京にもトルコライスを出す店があるらしい。
 * 最近はコンビニで トルコライス“風”の弁当を売っている

不思議なのは, なぜこれが「トルコ」ライスと呼ばれるようになったかだ。
私の理解に間違いがなければ,トルコはイスラム教だから豚肉は食べないはず。 したがって 間違ってもトルコから持ち込まれたということはないだろう。
長崎には 皿うどんとか チャンポンのような 伝統のある名物料理があるが, トルコライスについては 比較的歴史は浅いように思われるので, おそらくは「わけのわからない・怪しげな料理」というようなところが 名前の由来なのだろうか。
そういえば わけのわからない風呂屋が「トルコ風呂」と呼ばれていたこともあった。


[98.6.26 追加]

食べ物の話のせいか, 今回はたくさんのお便りをいただきました。その一部をご紹介。

【 Oさん】
今回も楽しく拝見させて頂きました。
名古屋地区には、みそカツがあります。名古屋で途中下車されて
ご賞味されたら、如何でしょうか。カツのレパートリーが広がると
思いますが。因みに私は好んでたべようとはおもいませんが・・・。

みそかつ 実は この「かつめし」の最初の原稿には「みそかつ」も含まれていたのですが, 同じような写真があまりたくさん並ぶのと ゲップが出そうな気がして, 最後になって割愛していました。
みそかつにも いろんな流儀があるんでしょうが, ここではご飯とカツが独立してました。 あらためて眺めてみると, 当然のことながら 似たようなもんだな と思います。

みそカツは 味が濃すぎてイマイチだなぁ, というのが私の感想でした。 でも 一回食べただけで批判はできないので もっと修行が必要かも。


【 MMさん】
かつめし私も驚きました。
ここ〇〇部は私以外の女性はみんな
『今晩の夕飯はかつめしよ〜』っていうぐらいのポピュラーな
食べものだって言うのです。
明石市民の私は全然知りませんでした。
東加古川の駅前には『かつめしのたれ』を売っているそうです。

テレビでは『加古川は牛肉が安いから』と結論づけていました。
また『うちのじーさんが考えついたんだ』という意見をのべているお店も。

加古川には『いちじくのてんぷら』という名物もあるそうです。
それは、テレビでしてたのですが、実際聞いてみると
一人だけ『仕出し弁当に入っていた』経験があるだけで、私のまわりでは
だれも知りません。
テレビではやってたんですけど。謎です。
【 MKさん】
カツメシ見ました。
私も噂を聞いて稲美町の「ロッキー」という店に食べたにいったことがあります。
クセになる味だったように思います。

テレビでも、「加古川のカツメシ」を題材に30分モノをやっていました。

加古川には、「カツメシのたれ」なるものが売っているようで、
主婦は「今晩はカツメシにしよう」という会話を日常的にやっているようです。

これからも、面白い記事をお願い致します。

『加古川は牛肉が安いから』・・・ ということは, やはり 本当のかつめしは ビフカツということなんですね。
(これで疑問の一つが解けた。)

『カツメシのたれ』 ですか。そういう商品が売られているということは, 地域限定で かなり大きなマーケットがあるということですね。 やはり加古川には かつめし愛好者が多いということか。う〜ん・・・
『カツ丼のもと』というのを使ってみたことがありますが, あれはまずかった...(^^;)

『いちじくのてんぷら』 名前を聞いただけでは あまり食欲がわかないですね。
誰か経験した人の話を聞きたいもんです。

【 Fさん】
『かつめし』はとても興味深く読ませていただきました。
私も去年はじめて『かつめし』を食べました。
研究所の Mさんからその存在を聞いたのです。
(明石ではやはり全然聞いたことがなかった)

早速,加古川の人においしい『かつめし』のお店を聞いて食べに行きました。
イメージは洋風カツ丼って感じでしょうか。
おいしかったのですが,やはり途中で飽きて来たような気がします。
でも不思議なのは付け合わせのキャベツは絶対ボイルしてあるもの
なんですよね。
加古川では『かつめしのタレ』だけも売っているらしいです。

世の中には不思議な食べ物がたくさんあるんですね。
長崎のトルコライスも興味があります。
結局,食べるものには興味津々なんです・・・

『付け合わせのキャベツは絶対ボイルしてある』・・・ そういえば 上のかつめしの写真, 2枚とも ゆでたキャベツがついてますね。
どうも観察力がないもので 今ごろそんなことに気がついてます。

【 IHさん】
とても面白く拝見しました。(いつも楽しく見させてもらっています)

ところで私は豚肉が好きです。以前はビーフが好きだったのですが、
年のせいか(?)、ビーフの臭みが気になって来て最近は豚肉の方が好きです。
もっとも、松阪牛とか神戸ビーフとかの高級肉はとても食することができず、
もっぱらOGビーフの類しか味わっていないせいかもしれませんが。

食べ物の好みというのはおかしなものですね。 私は 豚肉が臭いと思うし, IHさんは 牛肉が臭いとおっしゃる (^^)
牛肉のあの独特のにおいが うまさを感じさせるんだと思いますが...(^^;)

【 IJさん】
食べ物は地域によっていろいろな特徴をもってくる物なんですね。
「そばめし」と言うものを食べた事がありますか?
焼きそばとご飯を一緒にした物で、昔からこの辺(大阪/神戸/明石)で
食べられていました。
お昼に(夜も?)ご飯が少ないので量を多くするためそばを入れたらしいです
(逆かも?)
味はソース味ですから焼きそばがベースかもしれません。

最近関東でも『ちらし寿司セット』とか『ミニカツ丼セット』などという, ご飯とうどんを組み合わせたメニューを見ることが多くなりましたが, あれは関西(たぶん 大阪)の文化なんですね。いかにも関西らしいと思います。
しかし 『そばめし』とは, 名前を聞いただけで腹がいっぱいになりそうです。
焼きそばは インスタントが一番うまい。そういえば, 最近の休日の昼飯は インスタント焼きそばが多いなぁ...

【 Uさん】
牛肉と豚肉で思い出しましたが,九州では(たぶん関西でも),
肉と言えば牛肉,豚肉は単にブタ,鶏肉はカシワ,と呼んでいました.
(今でもたぶんそう呼んでいると思う)
だから,関東で言う肉まんは 九州では豚まん。我が家の肉ジャガは牛肉です.
ただし,豚肉で作った肉ジャガを豚ジャガとは言いません.何と言うのかは不明.

豚肉に鶏肉のから揚げの衣をつけて,中温の油で揚げて,白髪ネギでも散らすと
豚らしくなく,おいしく食べられます.このときの豚肉は安いバラ肉が最適です.
下味をつけるときに,ネギのみじん切りと生姜,ゴマ油を入れればもうプロの味です.

『肉と言えば牛肉』 そうそう 関西でも 肉=牛肉 のようです。 関西に住むようになって, スーパーの牛肉の売り場面積が広いのに驚きました。

『・・・ればもうプロの味です』 この文章だけを読んだ人は まさか Uさんが男性だとは思わないでしょうね。
女性から料理のしかたを教わっても, たいていは「ゲ 難しい...」 と聞き流してしまうけれど, 男性からの情報だと 真剣に聞いてしまうのはなぜでしょう。
『アイツにできるなら オレだって...』という競争意識が働くのかなぁ...

[98.7.6 追加]

【 IWさん】
かつめしは、明石でもあります。
記憶が定かではないのですが、JRの明石駅内の喫茶店でも食べれると思います。
かつめし とおしながきつきで、ドアの前にサンプルをだしていたと記憶して
います。かつめしという言い方に興味を持ったもののとりたてて食べたいとは
思わず、今も食べてはいません。

トルコライスは、東京駅の八重洲の地下街、仙台等食べました。
東京で食べたのは、ド-ナツ状に盛りつけられていて、中央には、穴があり、
そこにかつが入っていたと記憶しています。
一方仙台では、トルコ帽風の盛りつけとなっており、私はトルコライスというと
このライスの盛りつけの形が曲線を帯びているものをさしているのかと思って
いました。
メロンパンがありますが、あのパンも別にメロンと同じではありません。
マスクメロンにもっと別の方法で似せて作ることもできたはずです。
昔、確かにマスクメロンが高級の時代がたしかに存在していました。今でも
高いですが、20年前程ではないと思います。小学生の時、メロンがあると
親に言われて喜んだら、マスクメロンでなく、プリンスメロンでがっかり
したことを覚えています。メロンパンは、高級なメロンへの憧れを具現化
した産物ではないかと思います。
トルコライスも、オスマントルコ帝国、イスタンブ-ルで見られる建築美の
憧れで、ライスの盛りつけをしたのではないでしょうか・・・と私は思って
いたのですが、長崎のトルコライスは、フラットの盛りつけで考えを修正
しなくてはならなくなりました。

明石駅でかつめしが食べられるとは初耳です。 今まで誰からもそんな情報は聞かなかったですが, やはり かつめし という言葉に関心がないと 気がつかないのでしょうか。
一度 食べに行かなければ・・・
東京駅と仙台で トルコライスですか。よく見つけましたね。まだ トルコライスが全国区の食べ物になっているとは思えないですが, だんだん広まっていくんでしょうか。
それにしても, よくこれだけ知ってますね。偶然食べたことがある ということはあるかもしれないですが, これだけたくさんの経験をしている ということは, IWさんも かつめしやトルコライスに関心があったのか, そうでなくても相当 好奇心が旺盛なんでしょうね。



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