[2003-09-03]
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手筒花火

[2003-8-24]  


花火といえば, 線香花火から 大規模な打ち上げ花火・仕掛花火など, いろいろな花火がある。中でも 筒を手に持って 打ち上げるという, 独特な手法を用いる 『手筒花火』 は 大変ユニークである。
手筒花火とは, 大まかに言えば, 竹で作った筒に 火薬を詰め, それを手で持って 火をつけ, 空に向かって火炎を噴き上げるもので, 火柱の高さは 10メートルぐらいにもなる。 真っ赤な火の粉をかぶりながら 数十秒の間 じっと筒をささえ, 最後に ドカ〜ン という 爆発音で打ち上げを終了する。

手筒花火

手筒花火の存在を知ったのは 1〜2年ぐらい前だろうか。テレビの画面で見て, 何と無茶なことをするのか と思った。あれで どうしてヤケドをしないのだろうか? テレビの画面で見ているだけで 思わず興奮, ワクワクする。

まあ, その程度の興味だったのだが, 今年になって 「豊橋には 渡し船があるし, “手筒花火発祥の地の碑”というのがあるよ。“発祥の地コレクション”などのために 一度見に行ったら?」と親切に教えてくれる人がいた。 地図をもらったりして, 俄然 豊橋行きが現実のものになった。

更に 豊橋在住の Oさんにも いろいろな情報を教えてもらって, 先月 愛知県豊橋市 に行ってきた。

そもそも, 火薬が日本に伝来したのは,種子島への鉄砲伝来 (1543年『以後予算 --イゴヨサン-- かかった鉄砲づくり』) と同時だったと思われるが, 信長の戦国時代に始まって 江戸時代まで, 鉄砲の発展と 並行して 火薬も改良されていった。
花火は 最初 武器として開発されたとされるが, やがて 純粋な観賞用として 楽しまれるようになった。徳川家康が 天下統一の後, 17世紀の初めごろに 花火を上げさせたのが始まりと伝えられる。この後 家康の出身地である 三河地方で 花火作りが受け継がれるようになった。
とは言っても 火薬の原料となる 硝石 は, ほとんどが輸入に頼る 貴重品だったので, 花火はもっぱら 殿様の贅沢な遊びだったわけで, 庶民が 祭礼などで花火を打ち上げられるようになるのは 江戸時代後半になってからのようである。
また 手筒花火は 花火の中でも 最も古い形だったようで, 江戸時代の花火の多くは 手筒だったらしい。

豊橋市の吉田神社には 「手筒花火発祥の地」の記念碑があり, 18世紀初めから 手筒花火が発展してきた歴史が書かれている。

   手筒花火発祥之地記念碑

 轟音と火柱 三河っ子の熱き血潮を沸き立たせる手筒花火こそは全国に誇る 東三河の伝承民族文化の一つです
 こゝ吉田神社に残る記録「三河国古老伝」に「永禄元年(1558)天王祭 礼祀ノ花火ト云フ事始メル」又「吉田神社略記」に「花火ノ創始ハ羽田吉田綜 録ニ永禄三申庚(1560)今川義元公吉田城城代大原肥前守知尚公花火ヲ 始ムトアリ 花火ノ尤古ヨリ用ヒラレシハ流星 手筒トス然レドモ其ノ大ナル 者ナシ 次デ建物(仕掛花火)綱火等用ヒラルルモ亦然リ 建物ノ巨大トナリ シハ元禄十三年(1700)ニシテ手筒ノ雄大トナリシハ正徳元年(1711) ナリ云々」とあります
 花火は戦国時代新兵器として開発されると共に氏子により五穀豊穣 無病息 災 家運隆盛 武運長久を神に念じ若者の手造により大人への門出 勇気の証 しとして発達しその製造放揚の技術が脈々と今日に伝承されて参りました  この度手筒花火と花火文化を愛する東三河の皆様のご支援ご協賛により手筒 花火発祥の歴史を誤りなく後世に伝へたく其の記念碑と標示塔をゆかりの地 吉田神社境内に建立し愈々その発展を誓うものであります
    平成五年六月吉日
                    手筒花火発祥之地記念碑建立委員会

吉田神社では 毎年7月第3金土日曜日に 祇園祭が行われ, その第1日目に 神社境内で 手筒花火の“放揚”が行われる。 (ちなみに, 手筒花火は“打ち上げ”と呼ばず “放揚”と称する。)

吉田神社は, 鎌倉時代創建の 歴史の古い神社だそうだが, 境内は 思ったほど広くなくて, まあ 中〜小クラスの神社である。
参道を入って 正面に拝殿があり, その左側に 30メートル四方ぐらいの, ちょっとした駐車場ぐらいの空き地があって, 参道側と柵で仕切られている。 ここが 手筒花火が放揚される場所である。
すぐ隣には 民家が迫っていて, 物干し台を頑丈にしたような 物見のベランダが作られている。 ここは絶好の手筒花火見物の桟敷になるらしい。聞けば 手筒花火見物のために この家が わざわざ作ったものだそうだ。
それにしても こんなに近くで花火をあげて 危なくないのだろうか。

祭りの準備をしている人に聞いたところ, 「花火が始まったら 境内は人でいっぱいになるから 少し早めに来て 場所を確保した方がいい」とのアドバイス。 花火が目的で豊橋まで来たのだから, 人混みのうしろから“かいま見る” なんてことになってはいけない。
手筒花火の放揚は 午後6時半からとのことなので, 少し早め・・・というわけで, 5時前には スタンバイした。さすがにその時間にはまだ あまり人は集まっていないが, 広場と参道との 仕切りのフェンス前には カメラがずら〜っと並んでおり, 割り込むスキはない。かろうじて フェンスの一番端っこに陣取って, もうそこから一歩も動かず 花火の開始を待つ。

大筒・乱玉

既に 参道脇には 「大筒」や「乱玉」の神輿が 15台ほど集まって, 若者たちが 放揚の準備に余念がない。
大筒・乱玉 は「台物」と呼ばれて, 市内の各地区で作られ, 木枠で組んだ神輿に乗せて 数十人の担ぎ手で町内を練り歩き, この吉田神社に繰り込んでくる。
いずれも 太い筒を荒縄で巻いた, 手筒花火と同様の構造のもので, 大筒は 手筒花火の大型のもの, 乱玉は 打ち上げ花火の小型のもの という位置づけだろうか。

やがて 時間が迫ってくると, ワッショイわっしょいと掛け声を合わせて, 手筒花火を抱えた若者たちが 次々に到着する。彼らは やはり各町内ごとの グループで, 全部で 30本ぐらいの数になる。

手筒花火の特徴は, 最後に放揚する人 自身が 自分の花火を製作することにある。
筒の材料になる 孟宗竹を手に入れ, 竹の油抜きを行い, 筒の横割れを防ぐために 南京袋を巻き, 細縄と荒縄を巻き付け, 3キロほどの火薬を 慎重に詰める。 ・・・ この過程を すべて本人が行うのだそうだ。
(最近は 火薬を詰める作業だけは 専門の業者に委託するケースもあるとか。)
また 花火を打ち上げるには 『花火師』の資格を持たなければならないので, 彼らはすべて『煙火打揚従事者手帳』を持っている。

祇園祭 手筒花火 プログラム

やがて 暗くなると 境内に女性の声で 案内のアナウンスがあり, プログラム開始。
最初は 「神前の花火奉納」 ということで, 突然 神社の拝殿前で 放揚が 始まった。 花火は 広場でやるものと思っていたので, こんな場所で始まるとは予想外。
え? あんな狭いところでやるの? と思ったが もう間に合わない。なにしろ 拝殿から一番遠いところに陣取ったので, 火柱が高く噴き上げるのを 群集の頭越しに見るだけだ。 最後に ドン! という 腹に響く轟音を発して 花火は終わる。
これが 数回繰り返されたあと, 場所を広場に移して, 本番開始。

手筒を横に置いた状態で点火 ゆっくり持ち上げて 中央に運んで放揚
まず 手筒を横に置いた状態で点火
ゆっくり持ち上げて
中央に運んで放揚

手筒花火を放揚するには いろいろな“作法”があるようで, 門外漢には 詳しい 説明を書くことはできない。パンフレットなどを参考に 簡単に説明すると, 次のような手順になる。

  1. まず 3人(または 2人)が 広場の北隅に並んで, 手筒を水平(わずかに上向き)に置き, 動かないように足で押さえる。
  2. 経験豊富な年配者が 点火者となり, 花火に点火する。
  3. 点火者の指示により, 少しずつ手筒を起こしていく。
  4. 手筒を上に向けながら 広場の中央に移動し, 3人が整列する。
  5. 手筒の下に足がこないように 足を開き 腰を落として構え, 放揚する。約30秒。
  6. 最後に 「ハネ粉」という火薬に火が付き, 筒の底が抜けて ドカーンという 腹の底にまで響きわたるような 大きな爆発音を発する (ハネ) 。 (“ハネ”では 下に向かって爆風が吹きだすため 足を開いておく。)
    放揚は ここで 突然終了する。
前後を含めても 1分ぐらいの短い時間だが, あの壮大な火の粉をかぶりながら じっと耐えるのは 並大抵の度胸ではできないだろう。 数キロの火薬を詰めた 爆弾を抱えているようなものだ。 (これだけの量の火薬は 家を一軒吹き飛ばすだけの能力があるという。過去には 筒が爆発した事故もあったとか。)
若者たちの この勇気が, 手筒花火が他の花火と一味違う雰囲気をかもし出すのかもしれない。

現在 手筒花火は, 豊橋の他, 豊川・蒲郡 などの 三河地方と, 新居・引佐 などの 遠州地方 で盛んに行われているが, 三河と新居の手筒は 作り方や持ち方が 若干違うという。
また これ以外にも 静岡県(三島, 下田 など), 長野県(穂高など), 滋賀県(草津など) ・・・ 等々, 全国各地でも行われるようになったが, 技術的には 三河・遠州から 指導を受けている ものが多いようだ。



〈参考〉 豊橋関連の「コレクション」項目


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